税理士FPの日々鍛錬 ~go my way~

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学資保険に入らなくても大丈夫!教育資金一括贈与の特例とは?

子供の教育資金をどのように準備するかは、マイホームの購入資金や老後資金の確保と並んで、人生において非常に大きなテーマです。

学資保険を利用すれば、長い時間をかけて教育資金を準備することができます。ただ、保険料の支払いは長期間にわたって家計にのしかかるのです。

もしあなたが親や祖父母から教育資金の援助を頼みたいと考えているのであれば、教育資金一括贈与の特例制度についても知っておくべきです。

どのような要件になっているのか、そしてどのような人が利用すると有効なのか解説していきます。

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 教育資金の一括贈与の特例の概要

教育資金の一括贈与の特例は平成25(2013)年4月1日に始まった新しい制度です。

現金をたくさん持っている(といわれている)高齢者世代から、一定の要件のもと教育資金を若い世代に贈与しても贈与税がかからないようにして、教育費の支払に苦労する若い世代を助けるとともに、資金の世代間での移動を促すねらいがあります。

非課税となる税制上の特例には多くの要件があるため、その要件を満たしているかどうかを確認しておきましょう。

教育資金一括贈与の特例を受けられる人(贈与する人)

贈与する人(贈与者)の要件は、特にありません。贈与者には、所得金額、年齢などによる線引きはないため広く利用することができます。

しいて言えば、贈与を受ける人の直系尊属であることですが、通常の贈与でも直系尊属以外からの贈与はほとんどないため、普通の贈与をイメージしておけば大丈夫といえるでしょう。

直系尊属に該当しないケースとして1つ気を付けなければならないのは、配偶者の父母や祖父母からの贈与は該当しないことです。もっとも、教育資金一括贈与を利用する際にはあまり考慮する必要がないと思います。

教育資金一括贈与の特例を受けられる人(贈与を受ける人)

贈与を受ける人(受贈者)には重要な要件が2つ設けられています。

  • 贈与の契約を行う日において30歳未満である
  • 贈与を受ける年の前年分の合計所得金額が1,000万円以下である

教育資金に関する贈与ですから、通常はこれから高校・大学に進むような子供に対する贈与をイメージする人が多いと思います。しかし、制度上は30歳未満であればこの特例を利用することができます。

確かに、大学や大学院に進む年齢に制限はないため、特例の対象を子供に限らないことには意味があります。ただし、一方でこの制度が「相続税逃れ」に利用されるケースもあることから、受贈者が23歳を超えると一定の制約が設けられています。

それは、贈与者が亡くなった時の取扱いです。
贈与者が亡くなった日の前3年以内に教育資金一括贈与の特例を行っている場合において、①受贈者が23歳未満である場合、②受贈者が学校等に在学している場合、③受贈者が教育訓練給付金の対象となる教育訓練を受講している場合、のいずれにも該当しない場合には、その時点での残額が相続税の課税対象になることとされているのです。

亡くなった時点で受贈者の年齢が23歳未満であれば無条件で相続税の対象から外れます。しかし、23歳以上の場合は実際に教育を受けている要件を満たしていないと、結果的に相続税が課されるため、駆け込みでの「相続税逃れ」を防ぐものとなっています。

教育資金に含まれるもの、含まれないもの

教育資金一括贈与の特例を利用すると、贈与されたお金は教育資金にしか使うことができません。この特例の対象となる教育資金にはどのようなものがあるのでしょうか。

⑴学校等に直接支払うもの

入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費、入学(入園)試験の検定料のほか、学用品の購入費、修学旅行費、学校給食費など教育を受けるのに伴って必要な支出は教育資金に含まれます。

なお「学校等」とは、学校教育法で定められた幼稚園、小・中学校、高等学校、大学、大学院、専修学校各種学校、一定の外国の教育施設、認定こども園または保育所などをいうものとされています。

⑵学校等以外の者に支払うもの

①学習塾や水泳教室などに支払う授業料や施設の使用料、スポーツや文化芸術に関する活動や教養の向上のための指導料や、使用する物品の購入費

②学校教育を受ける際に購入する物品の購入費で学校等以外に支払うもの

③通学定期券代や留学のための渡航

非課税となる金額

教育資金一括贈与の特例で贈与税が非課税となるのは、最高で1,500万円までの贈与についてです。

ただし、「教育費に含まれるもの、含まれないもの」のうち⑵学校等以外の者に支払うものに含まれる金額については500万円までしか使うことができません。

教育資金一括贈与の特例の利用方法

⑴信託銀行等の金融機関に教育資金口座を開設し、贈与しようとしている財産を預け入れます

教育資金一括贈与の特例を利用するためには、信託銀行などの金融機関を利用しなければなりません。
税務署に対する申告書は金融機関を通して提出されます。

⑵教育資金の支払を行うために教育資金口座から払い戻しを行い、支払を行います

非課税措置の適用を受けるためには、支払の内容を証明する領収書などを金融機関に提出しなければなりません。
もし教育資金以外の用途に使った場合には、非課税の特例は適用されません。

贈与された資金が残ってしまう場合の取扱い

⑴受贈者が30歳になった日において口座に残額がある場合

残った金額について贈与があったものとされ、贈与税が課税されます。

⑵贈与者が亡くなった場合

2019年3月31日以前に贈与されたものについては、相続税の対象になりません。

一方、2019年4月1日以降に贈与されたものについては、①受贈者が23歳未満である場合、②受贈者が学校等に在学している場合、③受贈者が教育訓練給付金の対象となる教育訓練を受講している場合のいずれにも該当しない場合、相続税の課税対象になります。

どういう人が教育資金一括贈与の特例を利用するといいのか

ここまで教育資金一括贈与の概要を確認してきました。それでは、実際にどのような人がこの制度を利用するといいのでしょうか。

高齢の祖父母や曾祖父母からの贈与

高齢の祖父母や曾祖父母から贈与を受けることで、まとまった教育資金を確保することができます。

本来、祖父母や曾祖父母が教育資金を支出することは贈与ではありません。この制度を利用しなくても必要な都度支払うのであれば、教育資金を無税で支出することはできます。しかし、教育資金のためであったとしても、実際に使う前に渡しておく場合は贈与税の対象となってしまいます。

高齢の祖父母や曾祖父母の場合、孫や曾孫が実際に教育資金が必要になる時まで生きているか分かりません。また、通常は孫や曾孫には相続権はないため、教育資金を確保することができないかもしれません。だとすれば、祖父母や曾祖父母が亡くなった時に相続税が課税される可能性はありますが、教育資金を確実に確保するための手段としては有効です。

ほかに相続人がいる場合

中学生の子供に対する教育資金をこれまでその祖父が支払っていたとします。その祖父が亡くなったとしても、祖父の財産を祖父の子供である中学生の父が相続すれば、引き続き教育資金の支払は滞ることなく、問題は発生しません。

しかし、父の兄弟などほかに相続人がいると、教育資金の原資となる財産を他の相続人と分けなければならなくなります。そうなると、相続後に祖父の財産から教育資金を支払うことはできなくなります。

もし、祖父の財産の一部を教育資金として先に確保しておくことができるのであれば、将来の教育資金の支払に困ることのないよう、教育資金一括贈与の制度を利用することが有効なのです。

教育資金一括贈与の特例を使う必要のない人とは

それでは、逆に教育資金一括贈与を利用することがあまり効果的とはいえないケースには、どのようなものがあるでしょうか。

教育費をその都度払うことができると思われる人

教育資金を必要な時にその都度支払う場合、贈与税の課税対象とはなりません。今後も孫のために教育費を支払い続けることができるのであれば、教育資金一括贈与の制度を使う必要はありません。

自分の老後資金に不安がある人

孫のためと思って、それまで貯めてきた貯金の中から教育資金一括贈与をしたとします。贈与したお金は教育資金として利用すれば贈与税はかかりませんから、孫もその親(贈与者からみた子供)も喜んでくれることでしょう。

ところが、その後自分自身の生活費に不安が生じてしまっては意味がありません。老後資金を十分に確保したうえで、どうしても使い切れない金額を教育資金一括贈与に回すくらいの考え方でないと、余裕のない生活となってしまいます。

孫の喜ぶ顔を見たいのであれば、教育資金一括贈与を利用しなくても、生きている間にできることをしてあげればそれで十分です。孫のための支出は教育資金だけとは限りません。教育資金一括贈与を利用して贈与したお金から、孫の服を購入したり誕生日のプレゼントを購入した場合は、贈与税の対象となってしまいます。

教育資金一括贈与を利用して、かえって子供や孫をガッカリさせるような結果にならないようにしましょう。

特例にも落とし穴がある?必ず事前に利用するかの確認を

ここまで、教育資金一括贈与の内容と、利用した方がいい人・利用する必要のない人について確認してきました。

最大1,500万円まで非課税で贈与できるというメリットばかりに目が行くと、そのデメリットに気付かないことがあります。そもそも教育資金の支払は課税されないこと、そして教育資金一括贈与は教育資金のためにしか使えないこと、残額は贈与税の計算対象となることなどを考慮したうえで、実際に利用するかどうかを判断しなければなりません。

また、実際にはそれだけのまとまった資金を贈与できる人は限られます。そのため、これから子供のための教育資金を確保しようとしている人は、親から贈与を受けることは難しいものと考えたうえで、学資保険など現実的な選択肢を検討する必要があるのです。