高等学校等就学支援金制度の内容と金額、支給要件を確認
高等学校等就学支援金制度とは、高校の授業料を実質無償化するために創設された制度です。
通っている高校の種類や所得金額に応じて支援される金額が変わります。その支給要件や支給額の計算方法を確認しておきましょう。
支給要件
日本に居住していて、高等学校等に在学する人が支給対象となります。
ただし、保護者の道府県民税所得割と市町村民税所得割の合算額が507,000円以上の場合は支給対象になりません。
また、在学期間が3年を超えた場合、3年を超えた月からの支給はありません。
支給額
支給額は、公立高校に通う場合と私立高校に通う場合とで大きく異なります。
公立高校に通う場合
公立高校授業料相当額である年額118,800円が支給されます。
結果的に、授業料の負担はゼロとなります。
私立高校に通う場合
私立高校に通う場合は、保護者の所得に応じて支給額が変わります。
公立高校の場合と同じく年額118,800円を基準としますが、道府県民税所得割と市町村民税所得割の合算額が257,500円以下の場合、支給額は最大で年額396,000円となります。
なお、実際に支給される金額は、私立高校の授業料の平均額をもとに決められます。
そのため、授業料が平均額より低い私立高校の場合には実質的に授業料の負担がゼロとなるのですが、授業料が平均額より高い私立高校の場合は授業料の負担がゼロにはならず、差額分を負担しなければなりません。
支給要件を満たす金額の目安(令和2年6月までの計算方法)
それでは、支給要件にある「道府県民税所得割と市町村民税所得割の合算額」はいくらくらいなのでしょうか。
収入金額や家族構成によって大きく変わるため、そのモデルケースでおおよその金額を計算してみましょう。
所得割の合算額が507,000円以下となる場合
まずは、「道府県民税所得割と市町村民税所得割の合算額」が507,000円以下となる目安の金額についてです。
この金額を超えると、高等学校等就学支援金制度の対象から外れることとなるため、公立高校・私立高校の別に関係なく、一切の支給を受けることができません。
この制度の適用を受けられるかどうかを判断するうえで、非常に重要なボーダーラインです。
会社員と専業主婦、高校生1人、中学生1人の場合
会社員の場合、給与と賞与の金額によって住民税の額が変わります。
ここでは所得計算の方法を詳しく説明することは省略しますが、道府県民税所得割と市町村民税所得割の合算額がいくらくらいになるかを計算した結果は以下のとおりです。
文部科学省の公表しているパンフレットでは、「年収910万円未満であれば支給を受けることができる」としています。この計算では住民税の税率は標準税率としているほか、社会保険料控除は給与収入×10%で計算しているようです。また、社会保険料控除と配偶者控除、扶養控除以外の控除は考慮していません。
- 年収900万円の場合、498,500円
- 年収910万円の場合、506,500円
- 年収920万円の場合、514,500円
社会保険料の負担割合が給与収入の10%というのは、実際の金額を考えるとやや少ないように思われます。
例えば厚生年金に加入している場合、本人の負担率は9.15%、健康保険について協会けんぽに加入している場合の本人の負担率はおよそ5%程度となっています。そのほか、雇用保険料の負担もあるため、実際の社会保険料は15%程度になるはずなのです。
仮に社会保険料控除の額を給与収入×15%で計算すると、年収970万円を超えたあたりで所得割額が507,000円を超える計算となります。
社会保険料の金額は、加入している健康保険など人によって異なるため、あくまで目安と考えておく必要があります。
同様に、生命保険料控除などの控除額が増えると、所得割額の金額は減少します。910万円が目安になるのは確かであり、給与収入が910万円を超えなければ、確実に支給要件を満たすといえます。
会社員と専業主婦、大学生1人、高校生1人の場合
大学生の子供がいると、扶養控除の金額が増えるため、所得割額は逆に減少します。
そこで、大学生の子供がいる場合の所得割額を計算してみました。
なお、扶養控除の額が変わる以外は、先ほどの計算と同じ条件としています(社会保険料控除は給与収入×10%で計算)。
すると、年収920万円の場合の所得割額は469,500円となり、かなり低い金額となります。
そこで、所得割額が507,000円以下となる金額がいくらかを計算した結果、以下のようになりました。
- 年収960万円の場合、501,500円
- 年収970万円の場合、509,500円
この場合、ちょうど960万円と970万円の間にボーダーがあることが分かります。
夫婦共働きの場合
支給対象となるかどうかを判定する所得金額は、世帯主だけでなく親権者についてその金額を合算することとされています。
したがって、夫婦共稼ぎの場合は2名分の所得割額を合算しなければなりません。
夫婦それぞれの所得割額を計算して、その合計額が507,000円を超えるかどうかの判定となりますが、給与所得控除の額が両親2人に適用されるため、単純に2人の合計給与が910万円までとか、960万円までというわけではありません。
ただし、2人の両親がどのような比率で収入を得ているかによるため、単純に合計収入で目安の金額を求めるのは難しいと言わざるを得ません。
仮に2人の収入がまったく同額であるとすると、おおよその目安となる金額は高校生1人・中学生1人の家庭の場合1,030万円以内、大学生1人・高校生1人の家庭の場合1,090万円以内です。
所得割の合算額が257,500円以下となる場合
次に、「道府県民税所得割と市町村民税所得割の合算額」が257,500円以下となる目安の金額についてです。
こちらは私立高校に通う場合に、支援金の額が118,800円となるかそれ以上に支給されるかの分かれ目となります。
私立高校に通う場合、このラインを超えているかどうかによって支給額に大きな違いが生じることになります。
会社員と専業主婦、高校生1人、中学生1人の場合
所得割額が507,000円を超える金額を求めた場合と同じように、住民税の税率は標準税率、社会保険料控除は給与収入×10%とし、社会保険料控除と配偶者控除、扶養控除以外の所得控除がないものとした場合の計算となります。
- 年収580万円の場合、250,500円
- 年収590万円の場合、257,500円
- 年収600万円の場合、264,500円
この場合、年収590万円以下であれば私立高校に通う場合の上限額が118,800円より大きな金額となることが分かります。
なお、実際の社会保険料控除の金額やその他の所得控除の適用によって、年収が590万円を超えても所得割額が257,500円以下になることも考えられます。
会社員と専業主婦、大学生1人、高校生1人の場合
大学生の子供がいると、扶養控除の適用額が大きくなるため、その分所得割額が少なくなります。
この場合の年収に対する所得割額は以下のようになります。
- 年収650万円の場合、254,500円
- 年収660万円の場合、261,500円
したがって、650万円と660万円の間にボーダーがあることとなります。
夫婦共働きの場合
仮に2人の収入がまったく同額であるとした場合、おおよその目安となる金額は高校生1人・中学生1人の家庭の場合660万円以内、大学生1人・高校生1人の家庭の場合720万円以内です。
令和2年7月以降の支給要件の計算方法の変更
令和2年7月以降、支給要件の計算方法が見直されます。
これまでは、ふるさと納税を多く行った人や住宅ローン控除の適用を受ける人の所得割額が減少するため、年収が計算上の金額(910万円とか590万円といった金額)より低くなり、想定より収入の多い人が支給対象となるケースが見られたため、それを是正するための計算変更となります。
実質的には支給対象に大きな変更はないのですが、これまでふるさと納税などを利用することで支給対象となっていた人は、令和2年7月以降は支給対象から外れたり、金額が変わる可能性があるので注意が必要です。