税理士FPの日々鍛錬 ~go my way~

税理士でもあるFPが日々考えていることを書きます

緊急事態宣言下の決算作業の不安

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で7つの都府県に緊急事態が宣言される中、企業の事業継続にもさまざまな工夫がなされ、報道でも取り上げられています。

しかし、在宅勤務やリモートワークといった取り組みができたり、時差出勤や交代制の勤務ができる企業ばかりではありません。また、同じ会社の中でも在宅勤務ができる業務とできない業務があります。

そんな中、これから3月決算法人の業務が本格化することについて、危惧しています。

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個人の確定申告については期限の延期が行われた

個人を対象とした確定申告については、感染拡大を防ぐため、1か月の申告期限の延期が行われ、その後さらに新型コロナウイルスの影響がおさまるまで、実質的に申告できなくても問題ないこととされました。

これは、個人の納税者が税務署に特定の時期に税務署や確定申告会場に集まり、感染が拡大することを防ぐ目的があったと思われます。

実際、例年であれば大混雑となる3月の確定申告会場が、今年はそれほど混んでいないように思われました。電子申告やスマホでの申告が普及してきたとの意見もあるようですが、確定申告を行う人は高齢者が比較的多いことから、申告期限が延長された効果があったのだと思います。

また、税務署の職員に感染者が出たというニュースはありましたが、税務署での集団感染は今のところ発生していないことからも、一定の効果はあったのだと思います。

法人税の申告書作成の現場は密閉に近い

法人の決算作業は、法人の決算期によって時期が異なるため、すべての法人でこれから決算を迎えるわけではありません。しかし、3月決算法人は最も数が多く、既に決算作業が始まっているところがあります。この先、3月決算法人の作業はゴールデンウィーク明けに向けて本格化していきます。

法人の申告業務は、個人の場合と違って税務署に納税者が集まることはありません。会社の担当者が大挙して税務署に出かけることはなく、申告書類の郵送または電子申告で完結するため、税務署で集団感染が起こる可能性はほぼゼロでしょう。

しかし、決算作業の現場ではそうはいきません。決算作業は会社の担当者だけで行うケースもありますし、税理士が申告書を作成するために会社に行く場合もあります。また、上場企業や規模の大きな会社では、公認会計士による監査も行われますが、いずれも会社内の非常に閉鎖的な場所で行われることが多いのです。

なぜ閉鎖的な場所で決算作業が行われるのでしょうか。それは、利益や役員報酬、給与などの人件費など、会社のあらゆる数字が明らかになるため、ごく限られた人だけしかその数字を見ることができないようにするためです。

私自身も上場企業から中小・零細企業まで様々な会社の決算にお邪魔していますが、どの会社もできるだけ大勢の従業員がいない場所で作業を行います。ひどい場合は窓もないような部屋で作業を行うこともあります。そうしなければ、作業するスペースはありませんし、会社の機密を守ることができないのです。

おそらく、日本中の3月決算法人がこれから決算業務を本格化させていくうえで、どのような形で作業を行うか頭を悩ませると思います。

解決策は申告期限の延長しかない

法人の決算業務に携わる人たちは、今後「3密」を避けつつ作業を行うことは難しく、非常に不安を感じていると思います。また、中小企業などはすでに事業継続に黄信号が灯っているケースもある中で、決算作業よりも先に資金繰りや取引先・金融機関との交渉を進めたいというところも多いと思います。

はっきり言って、この状況で例年と同様に決算作業を行うことは無理だと思います。だとすれば、状況がある程度収まるまでは申告期限を延長し、その後順番に申告を行うようにするしかないと思うのです。

新型コロナウイルスが蔓延しても、経済を停滞させてはならないという意見があります。しかし、経済と感染症対策が両立しないからこそ、感染者が増加しているのが現実です。また、この先さらに感染が拡大すれば、いよいよ経済への影響は計り知れないものになるでしょう。経済への影響を最小限に食い止めたいのであれば、緊急事態宣言の内容をもっと強固なものにし、まずは感染拡大を抑える必要があると思います。

企業は納税したくて決算作業をしているわけではなく、しなければならないからしているのです。今すぐに決算をしなくてもいいのであれば、感染拡大を防ぐためにあらゆる方策を取ることができるはずですし、企業の継続のための活動に力を注ぐことができるはずです。また、納税自体を免除するというわけではなく、一時的に延長するということが、感染拡大を防ぐためにできることだと考えています。

緊急事態宣言にある中で、なぜ政府として申告・納税期限の延長という方針を打ち出すことがなぜできないのか、非常に不信感を抱いています。 

緊急経済対策でも言及はなし

なお、4月7日に公表された緊急経済対策では、「有価証券報告書等の提出期限に係る柔軟な取り扱い」を検討する旨が明記されています。

しかし、法人の申告期限に関する柔軟な取り扱いについての言及はありません。税制措置として書かれているのは、経済的に厳しい状況にある企業に対する税制上の措置ばかりです。

しかもここに書かれている内容は、「1年間の納税猶予」や「令和3年度1年分に限り固定資産税・都市計画税を2分の1またはゼロに」、「新規に設備投資を行う中小事業者等を支援する税制措置」など、あまりにも?な内容ばかりなのです。

そもそも、1年間の納税猶予を受けても、1年後にはすぐに納税できるのでしょうか。また、固定資産税・都市計画税を1年間だけ減額されて喜ぶ納税者はどれくらいいるのでしょうか。新型コロナウイルスの影響で売り上げが激減した中小企業は、設備投資など夢のような話で、どのように会社を守っていくかを考えると毎日寝られない経営者も大勢いると思います。

本当に利益が出ていなければ税金を払う必要もないとは言え、本当に助けてほしい人にはあまりにも無力な税制措置だと思います。

そして、会社の決算に携わる人たちには、あまりにも無情な内容だと言わざるを得ないのです。