税理士FPの日々鍛錬 ~go my way~

税理士でもあるFPが日々考えていることを書きます

田舎暮らしの経済事情を検証してみよう

田舎暮らしをしたいと思っている人にとって大きな不安となるのが、人付き合いやしきたりといったことのほかに、田舎での生活が経済的に成り立つのかという点です。

一般的に、田舎での生活はお金がかからないというイメージですが、実際のところはどうなのでしょうか。また、田舎の生活で収入を得たいと考えている人もいると思いますが、果たして可能なのでしょうか。

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こんな田園での生活も楽ではない?

田舎での生活にかかるお金を考えてみる

まずは田舎での生活費を考えてみましょう。都会での生活に比べて、すべての面において安くなるのか、あるいはどれくらいメリットがあるのか考えてみることとします。

田舎の生活拠点はどうする~持ち家か賃貸か~

都会に住んでいる人が田舎に移住する場合には、田舎の生活拠点をどのような形にするか考えなければなりません。田舎で住宅を借りるのと、田舎に住宅を購入するのとでは違いがあるからです。

当然のことですが、賃貸物件を探して住む方が初期費用も安く、手軽に移住することができます。ただ、「空き家バンク」などで田舎の物件情報を検索してみると、売却希望の物件が多いのに対して、賃貸物件の数が少ないことが分かると思います。

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賃貸物件は建物の管理や家賃の集金などを行う大家さんがいなければなりません。しかし、過疎化により賃貸物件を保有し管理する大家さんが減るのにつれて賃貸物件も減っており、一方で管理しきれない物件を売却しようとする人が増えているのです。田舎に住むのであれば、まずは賃貸がいいと思っていても、都会で賃貸物件を探すように、多くの物件の中から条件にあった物件を探すことができないかもしれません。
都会で賃貸物件を探すよりは、1か月あたりの家賃はかなり安くなると思います。ただ、築年数の浅い建物など条件のいい物件については、家賃もそれなりの金額になっています。

一方、購入を希望する場合、田舎の物件であれば賃貸より選択肢が増えます。そして、都会では考えられないような金額で、広大な敷地や畑のついた住宅を購入することが可能です。

ただ、田舎の物件が安いのは、それだけの理由があります。空き家バンクなどで売りに出ている多くの物件は、誰も相続したくない物件であったり、相続しても使い道のない物件です。相続したくない、あるいは安くてもいいから手放したいということですから、住むのに不便な場所にあったり、仕事を探すのに苦労するような場所にあったりします。仮に敷地が100坪以上もある住居が500万円で買えるとしたら、大変魅力を感じるかもしれませんが、はたしてそれだけの金額を出して購入する価値があるのか、よく考える必要があります。

特に田舎の土地・建物は相続の際に揉める原因となりやすいので注意が必要です。というのも、田舎に住んでいる親の所有する不動産を田舎に住んでいない子供が相続する場合、相続したくないと考える人が大半だからです。そのため、相続しても登記などの手続きを行わずに放置している人や、相続放棄して相続しないようにする人もいます。田舎に住居を購入した場合、自分の死後に発生する相続で子供が困るかもしれないと覚えておく必要があります。

賃貸にしても購入にしても、ある程度の妥協は必要ですが、何も比較せずに、そして現地に身に行くこともなく決めてしまうことのないようにしなければなりません。「空き家バンク」のようなサイトに登録されていない物件があるかもしれませんから、ある程度移住先の候補を決めたら、その地域の不動産事情を探るためにも、直接現地に足を運ぶ方がいいでしょう。直接現地に行くことで、掘り出し物の物件に出会えるかもしれません。

田舎と都会で生活費に違いはあるのか

田舎の方が物価が安い、とはっきり言えるのは家賃や土地の価格など、不動産にかかる金額だけです。それ以外の食料品や日用品などの支出は、田舎だから安くすむというわけではありません。

もっと言えば、田舎の方が物価が高くなるものもあります。それは、都会の方がお店の数が多く価格競争が起こりやすいのに対して、田舎はお店の数が少ないため価格競争が起こらなかったり、安いお店を探して買い物に行くことができないためです。

一方で、食料品は自分で野菜を育てたり、ご近所さんからのおすそ分けをもらえたりするため、安くつくことが多いと思います。ただ、新鮮な肉や魚が手に入りにくくなるなど、都会にはない不便さを感じる瞬間はあるかもしれません。

田舎の生活に車は欠かせない

田舎で生活するうえで大きな問題となるのが、公共交通機関が充実していないことです。そのため、病院に行くのも買い物に行くのも、すべて車を利用する必要があります。田舎の生活で車は欠かせないのです。

車が必要不可欠となるため、これまで都会での生活ではあまり車に乗っていなかった人でも、田舎に移住する際には車を購入することとなるかと思います。畑で野菜を育てたり、田んぼでお米を作ったりしたいのであれば、軽トラックや軽ワゴンを購入することとなるでしょう。維持費も安くすむうえ、農作業の荷物を載せたり肥料などを買い出しに行く際にはとても便利です。もし今、自家用車を保有しているのであれば、田舎への移住を機に買い換えるのがいいかもしれません。田舎では軽トラックや軽ワゴンが自家用車という人ばかりですから、かえって違和感なく受け入れられるのではないでしょうか。

ただし、車の運転は危険も隣り合わせですから注意が必要です。特に、高齢ドライバーの事故が連日報道されている中で、同じような過ちを犯さないよう、自分の身に危険を感じたら運転をしないという選択をしなければならなくなります。車がなくても、買い物に行ったり病院に通ったりすることができるのか、あらかじめ考えておく必要があるのです。

田舎暮らしで収入を得たいが可能か?

田舎に移住して、年金とそれまでの貯金を取り崩して生活ができるのか不安に感じる人も多いと思います。そこで、何らかの方法で収入を得ることができないか考えることでしょう。田舎に移住したのだから、その環境を生かして商売を始めたいと考えるかもしれませんが、実際のところうまくいくのでしょうか。

田舎でカフェを開きたい

私個人の感覚では、テレビなどで紹介されている移住者のうち6割~7割くらいの人は、その移住先でカフェを開いているような気がします。もっとも、カフェを開いた移住者が多くマスコミに取り上げられているという面はあるでしょうから、実際はもっとその割合は低いのでしょうが。

移住したらカフェを開いて生活費だけでもいいから収入を得たい、と考えるかもしれませんが、現実はそれほど甘くありません。
田舎のお店ですから、観光地でもない限り、そしてよほど評判のお店にならない限り、やってくるお客さんの数は限られます。仮に地元に住む人だけをターゲットにするのであれば、1日の来店者は1桁、売上は数千円ということも考えられます。これでは生活費を稼ぐどころか、持出しとなる可能性大です。

それではどうしたら売り上げを増やすことができるのだろうと考えるかもしれませんが、やはり住む人が少ない田舎ではビジネスチャンスは限られます。カフェを始めるために移住するわけではないでしょうから、カフェをやって収入の足しにしようなどと考えない方がいいと思います。空いた時間を利用して、趣味の延長としてカフェを始めて、地元の人も含めた交流の場を作るというくらいの感覚でなければ、カフェの経営はしない方がいいと思います。

農業で収入を得たい

田舎に移住した際に、畑付きの家を購入したり、近所の人から畑を借りた利する人が多いと思います。最初は、自分たちで食べるための野菜を作るところから始めるのですが、次第に野菜作りにも慣れてくると、もっと大量に作って売ることはできないだろうかと考えるかもしれません。

野菜を作って売る方法として思いつくのが、道の駅などに設けられた農産物の直売所で売る方法です。その直売所を管理・運営している自治体やその外郭団体、農協などで生産者としての登録をすれば、誰でも作った野菜を売ることができます。

ただ、「売ることができる」からと言って簡単に作った野菜が売れるわけではありません。直売所には、もともと地元の卸売り市場に出荷している人、つまり「農業のプロ」が少量のロットで売りに出しているケースもあります。季節ごとにできる野菜は大体決まっていますから、数多くのライバルに対抗して売れる野菜を作るためには、相当の努力が必要です。

また、野菜が売れるようになったとしても、その収入が大きく増えるとは限りません。野菜を作るためには、野菜の種や苗、多くの肥料や除草剤などを購入しなければなりませんし、軽トラックや軽ワゴンだけでなく、トラクターや耕運機なども購入する必要があるかもしれません。これらの支出をしていると、野菜を売って得た収入はあっという間に飛んで行ってしまいます。収入を増やすためには、初期投資が必要というジレンマに悩まされるのです。こう考えると、農業で収入を得るというのは非常に大変なことなのです。

田舎に移住する意味をもう一度考えてみよう

田舎への移住を考えているあなたは、何をきっかけに田舎に移住したいと考えたのでしょうか。自然に囲まれた環境で、残された時間を心豊かに暮らして生きたいという人もいれば、ゆったりとした時間の流れる環境で自分らしく生活をしたいと考える人もいるでしょう。

田舎に移住して経済的なメリットを得ることは、なかなか難しいと言わざるを得ません。特に移住してから収入を得たいと考える人の場合、ここに書いたカフェや農業の経営が難しいだけでなく、アルバイトをしてお小遣いを稼ごうと思ってもそのアルバイト先がなかなかないということも考えられます。

そもそも田舎に移住して、収入を得る必要があるのでしょうか。もしどうしても収入を得なければならない事情があるのであれば、移住せずに都会で仕事を探す方が先決です。

ただ、田舎に移住すれば家賃以外の生活費も安くすむというわけではありません。田舎への移住を失敗しないためには、年金などの収入がどれくらいあり、毎月どれくらいの生活費がかかるのか、調べてみる必要があります。