税理士FPの日々鍛錬 ~go my way~

税理士でもあるFPが日々考えていることを書きます

中小企業の経営者や自営業者はiDeCoより小規模企業共済に加入しよう

iDeCoという名前は、節税の手段としても、老後の生活資金を確保するための手段としても、すっかり定着した感じがあります。また、実際にiDeCoに加入したという方も多いのではないでしょうか。

iDeCoを始めると、その掛金の全額が年末調整や確定申告の際に「小規模企業共済等掛金控除」の対象になるため、現役のうちから所得税の節税をすることができます。

ところで、iDeCoを開始して初めて年末調査の書類や確定申告書の作成をする時に、「小規模企業共済等掛金ってどういったものなのだろうか」と疑問に思った方もいるのではないでしょうか。ここでは、小規模企業共済とはどのようなものか、加入者の条件とそのメリットについて解説します。

f:id:e-lifeplanning:20200317194327j:plain

小規模企業共済等掛金控除の記載欄

 

小規模企業共済とは

小規模企業共済の制度は昭和40年(1965年)に始まりました。その目的はまず、小規模企業の経営者や個人事業主が現役を退いた後の生活を安定させることや、廃業した後に事業の再建を図ることができるようにすること。そして、サラリーマンや公務員と比べて、小規模企業の経営者や個人事業主社会保障が手薄であるため、その補完をすることです。
サラリーマンなどは加入の資格がないため、注意しなければなりません。

小規模企業共済の加入資格

次のような人が小規模企業共済に加入できます。

  1. 建設業、製造業などを営む場合は、従業員数20人以下の個人事業主または会社の役員
  2. 卸売業・小売業、宿泊業などを除くサービス業を営む場合は、従業員数5人以下の個人事業主または会社の役員

そのほか、組合や士業法人などの役員について、その従業員数に応じた加入資格が定められています。

小規模企業共済の掛金

小規模企業共済の掛金は、月額1,000円から7万円までの範囲内で500円単位で自由に設定できます。

掛金の納付方法は、月払いのほか、半年払い、年払いから選択できますが、生命保険料のように年払いにしたからといって、その掛金が割り引かれるわけではありません。

共済金の受取りと金額

共済金を受け取ることができる場合にはいくつかの種類があります。

個人事業主の場合
  • 共済金A・・・個人事業を廃業した場合、亡くなった場合
  • 共済金B・・・65歳以上で180か月以上払い込んだ場合の老齢給付
  • 準共済金・・・法人成りして加入資格を喪失した場合
  • 解約・・・任意解約、12か月以上の滞納
法人の役員の場合
  • 共済金A・・・法人が解散した場合
  • 共済金B・・・病気やけがで役員を退任した場合、65歳以上で役員を退任した場合、亡くなった場合、65歳以上で180か月以上払い込んだ場合の老齢給付
  • 準共済金・・・法人の解散や病気・けが以外の理由で役員を退任した場合、65歳未満で役員を退任した場合
  • 解約・・・任意解約、12か月以上の滞納
共済金の額

共済金の額は、掛金の額と掛金の納付月数により決まっています。また、共済金を受け取る際の理由によって、共済金A・共済金B・準共済金・解約手当金のいずれかの金額が支払われます。

例えば、掛金月額1万円で20年加入した場合(掛金の払込総額240万円)の共済金は以下のとおりです。

  • 共済金A 2,786,400円
  • 共済金B 2,658,800円
  • 準共済金 2,419,500円

共済金を受け取る際の理由によって、共済金の額には大きな差があります。ただ、準共済金を受け取るのであれば、加入期間が短くても掛金の総額を下回ることはありません。

ただ、解約手当金を受け取る場合には、掛金の納付月数が240月、つまり20年を超えていないと、掛金の総額を下回ってしまいます。

小規模企業共済をおすすめする理由

小規模企業共済が経営者や自営業者におすすめな理由はいくつかあります。

  1. 加入の手続きが簡単で、好きな時に始められる
  2. 共済金の金額が定められているため、運用状況をチェックする必要がない
  3. 途中で解約してもメリットが得られる

これらの点について、その内容を確認しておきます。

1.加入の手続きが簡単で、好きな時に始められる

小規模企業共済の加入手続きは、独立法人中小企業基盤整備機構が提携している金融機関で行うことができます。確定申告書の控などの必要書類を準備したうえで、契約申込書に記入すれば申し込みは完了します。

また小規模企業共済に加入を決めた時に、年払いで最高84万円の掛金を払い込むことができるため、最初から多額の所得控除を受けることができます。多額の所得税が発生しそうな時には、年末に加入手続きを行い掛金の払込をすることで、大きな節税効果を受けることができるのです。

2.共済金の金額が定められているため、運用状況をチェックする必要がない

小規模企業共済は、あらかじめ共済金の額が定められており、自分で運用することによってその共済金を増やすことはできません。

ただ、会社の経営や事業に集中したい経営者にとっては、運用状況を常時チェックする時間はないかもしれません。そのため、運用によって増やすよりも、確実に受け取ることのできる金額が決まっている方がいいのではないでしょうか。事業をたたんだ時や役員を退任した時に、退職金代わりに受け取ることができるので、退職後のライフプランも立てやすくなるはずです。

3.途中で解約してもメリットが得られる

途中で解約した場合は、掛金の納付月数が240月を超えないと、払い込んだ金額以下の解約手当金しか受け取ることができません。そのため、解約しなければならない状況になってしまうことがデメリットと考えるでしょう。

しかし、解約手当金の額によっては必ずしもメリットがないわけではありません。なぜなら、払い込んだ掛金については所得控除の適用を受けているため、解約するまでの期間にわたって節税の恩恵を受けているからです。

節税となる金額は人によって異なりますが、所得金額が大きい人ほどその額は大きくなります。例えば、課税所得金額が1,000万円の人が月額7万円・年額84万円で小規模企業共済に加入していた場合、払い込んだ掛金による節税額は所得税と住民税を合わせて367,000円にもなります。加入してから10年間で解約した場合は、トータルで367万円もの節税を受けていることとなるため、解約手当金が元本割れとなったとしても、全体で見ればプラスになっている場合があるのです。

 共済金や解約手当金の受取には最低加入期間がある

共済金A及び共済金Bを受け取る場合、掛金納付月数が6か月以上必要です。また、準共済金及び解約手当金を受け取るためには、12か月以上の掛金納付月数が必要です。この最低納付月数をクリアできない場合には、戻ってくる金額が全くないこととなってしまうため、あらかじめ覚えておいてください。